Under the mattress (マットレスの下)
いきなり変な表現ですが、「under the mattress」。
訳して、「マットレスの下」。
これには、何のひねりもありません。文字通り、「ベッドのマットレスの下」という意味です。マットレスを2段お使いの方には、「マットレスの間」という意味にもなりますでしょうか。
9月中旬、あっという間に、アメリカのウォールストリートから世界中に広まった金融危機ですが、この大恐慌以来の惨事に直面して、「マットレスの下」という言葉が巷(ちまた)で大流行しているのです。
たとえば、こんな風に使います。
Keep your cash under the mattress.
そう、大銀行の倒産などを受けて、銀行がもう信じられなくなったから、「ベッドのマットレスの下にお金を保管しておきましょう」という意味ですね。
日本の場合は、「タンスの引き出しに隠す」というのが常套手段なのかもしれませんが、アメリカの場合は、「マットレスの下」というのが隠し場所の常套句となっているのです。
まあ、本当にマットレスの下にお金を隠している人が多いのかはわかりませんが、実際、銀行に預けていても倒産する可能性があるので、「こういうときは、現金を少し手元に置いておいた方がいいよ」というのが、一般的なアドバイスでもあるようですね。
そうそう、9月に金融危機が起きてすぐ、深夜コメディー番組なんかでは、さっそくこんな風刺的なスキットもありましたよ。
ここの銀行の名は、「First Mattress Bank(ファースト・マットレス銀行)」。言うまでもなく、マットレスの金庫で現金を保管しているし、みんながキャッシュを引き出すATM(自動現金預け払い機)だって、本物のマットレスを利用しているのです。
銀行員も預金者も、「これほど安心できるシステムは無いでしょう」と、にっこりなのです。
(銀行や金融関係の会社には、「First 〜」と名付ける場合が多いのですね。日本で言うと、さしずめ「第一 〜」といった感じでしょうか。)
それから、雑誌『ニューヨーカー(The New Yorker)』には、こんな風刺漫画も掲載されていました。残念ながら、写真はないのですが、ニューヨーカー誌で漫画編集を手がける、ロバート・マンコフ氏が描いたひとコマ漫画です。
どこかの銀行のファイナンシャルアドバイザーが、顧客に対して電話でこうアドバイスしています。
Right now I think the wisest strategy is to diversify among your mattresses.
「今現在は、あなたの家のいくつかのマットレスに分散させるのが一番賢い戦略だと思いますよ。」
皮肉なことに、この文章にある「diversify(分散する)」という言葉は、ファイナンシャルアドバイザーが大好きな言葉なのです。普通の状況では、株だけではなく、国債や公債、それから各種ファンドや先物取引、はたまた不動産と、分散して投資しておくのが良いという意味ですね。
けれども、こんな状況になったら、どこに投資しても資産は目減りするばかりなので、いっそのこと現金をあっちこっちのマットレスに分散しておきましょう、というブラックユーモアなのです。
いやはや、連日、株式市場は急激に下がったり、上がったりで、会社の業績が良かろうが、悪かろうが、そんなことはまったく関係がありません。今までの市場の理屈なんていうのは、まったく通らないのです。
そんな中では、ハロウィーンやクリスマスと、いろんなイベントの度に消費者の財布のひもを緩めてもらうことが、景気回復の起爆剤となり、ひいては市場の安定に繋がるのかもしれませんね。
今年のハロウィーンには、58億ドル(約5800億円)の経済効果が見込めるだろうと。なにせ、子供たちに配るお菓子には、国民一人当たり20ドルが使われるそうなので。
「ハロウィーンは子供たちのお遊びさ」などと、決してバカにはできませんよね。
そうなると、プレゼントを買いあさるクリスマスには、もっとたくさんの経済効果が期待できるのでしょうか?
(銀行が信用できないとなると、「使っちゃえ!」というのもアメリカ人のお得意なところでしょう。)
さて、お金を隠す場所は「マットレスの下」というのが常套句になっているというお話をいたしましたが、こんな実話もありました。
バスルームの壁の中に隠す!
ちょっと作り話みたいな実話なのですが、五大湖のエリー湖に面した街、オハイオ州クリーヴランドでは、家を改築しようとバスルームの壁をぶち抜いたら、年代物の緑色の薄型金庫が出てきたのでした。
金庫はふたつ、薬棚の裏の壁の中に針金で吊るされていて、中には18万2千ドル(約1820万円)もの札束が入っていた!
実は、この家は、83年も前の1925年に建てられたもので、その直後に起こった大恐慌のときに、持ち主のビジネスマンが、当時の紙幣をたくさん金庫に入れて、壁の中に隠していたのです。
このビジネスマン、パトリック・ダンさんは、新聞社も持っていたような成功者でしたが、大恐慌で次々と銀行が倒産する中、さすがに銀行が信じられなくなったのでしょう。「マットレスの下」ならぬ「壁の中(inside the wall)」を隠し場所に選んだのでした。
ところが、話はこれだけでは終わりません。
この家の現在の持ち主は、パトリックさんとはまったく関係のない、アマンダさんという女性。彼女は高校の同級生だったボブさんに家の改築を依頼します。
そこで、話がややこしくなるのです。つまり、家の持ち主はアマンダさんだけど、発見者はボブさん。
アマンダさんが「10パーセントをあげるわ」というのに対し、ボブさんは「僕が見つけんだから、40パーセントをよこせ」と要求するのです・・・そして、ふたりの間では、揉め事が起きる。
お金が見つかったのは一昨年の2006年。それから一年ほど喧々諤々のいがみ合いが続き、話はどんどん大きくなって、昨年末には新聞ネタにまでなりました。
すると、黙っていないのが、パトリックさんの末裔たち。調停の結果、ダン家の子孫21人もおすそ分けにあずかることになりました。
いやはや、ふたりが内密に合意していれば、ふたりで山分けできたものを、23人で分けるとなると、一人分たったの8千ドル(約80万円)なり!
おまけに、改築業を営むボブさんは、まわりの人から「あいつは欲の皮がつっぱっている」と噂され、前ほどお客さんが来なくなったとか。まさに、踏んだり蹴ったりとは、このことなのです。
教訓: 金は天下の回り物です。今は貧しくとも、いつかはお金を手にすることもあるでしょうし、たとえ目の前にお金がぶら下がっていたとしても、いつかはパッと消えて無くなるのかもしれません。
ちなみに、リチャード・ギアとジュリア・ロバーツ主演の映画 『プリティ・ウーマン(Pretty Woman)』 では、ジュリア・ロバーツがアパート代にする現金をトイレの水槽に隠しているシーンが出てきましたよね。バスルームの壁やトイレの水槽の中、これも人気のある隠し場所なのかもしれません。