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英語ひとくちメモ/場面
English Words 英語ひとくちメモ
2025年02月23日

Viennese waltz(ウィンナ・ワルツ)

<英語ひとくちメモ その182>

いつの間にか、今年ももう二ヶ月が終ろうとしています。


まさに、Time flies


「時は飛んで行くように」通り過ぎて行きます。


そんな2月は、ちょっとしたエピソードをご紹介いたしましょう。


先日、ヴァイオリンレッスンで通っている楽器屋さんで小さなコンサートがありました。


有名な若手ヴァイオリニスト・中村太地(なかむらだいち)さんと、留学先のオーストリア・ウィーンで同級生だったピアニストの前野涼子(まえのりょうこ)さんのデュオコンサートです。


20名ほどの聴衆に向かって演奏される、こぢんまりとした贅沢なコンサート。中村太地さんは、1734年製の『ガルネリ・デル・ジェス“プリンス・ドリア”』という名器を演奏され、わたしのようなヴァイオリン初心者でも、その音色の違いに、まさに圧倒されたのでした。


ウィーンを本拠地とされていますが、近年はコロナ禍で日本滞在も長くなり、演奏会も精力的に開かれているご様子。そんな番狂わせなスケジュールに深く感謝です。


言うまでもなく、息の合ったお二人の演奏も印象に残るものでしたが、演奏の合間に披露されたご自身のエピソードの中で、脳裏に刻まれたものがありました。


それは、日本の高校を卒業して飛び込んだ、ウィーンでの留学生活のひとコマ。


ウィーンといえば、ワルツの都。


Viennese waltz(ウィンナ・ワルツ、英語ではヴィエニーズ・ウォルツ)という呼び名は、新年のウィーン・フィルハーモニー管弦楽団のニューイヤーコンサートでも世界中に知られています。


学生一人ひとりに地元が誇る作曲家フリッツ・クライスラーの小品が課題として与えられ、先生の前で弾いたときのこと。


開口一番、「大地のヴァイオリンは、日本語に聞こえる」と言われたそう。


ワルツとは三拍子ですが、ウィンナ・ワルツは通常の三拍子ではなく、2拍目と3拍目に微妙な間合いがあります。


そう、機械的に「1、2、3、1、2、3」と数えるのではなく、「タン、タラッ、タン、タン、タラッ、タン」と微妙なズレに身を任せるのです。


そこのところが、平面的で、単調な(monotonous)言語である日本語で育った人と、母音や子音の違いのある、抑揚のある(rhythmical)言語で育った人の間で、音楽の体現のしかたに違いを生み出しているのだろう、と先生は指摘されたようです。


もちろん、小さい頃から聞き慣れた日本語の環境だけが、リズム感に影響しているわけではないでしょう。


たとえば三拍子なら、拍子を崩さずメトロノームのように「1、2、3、1、2、3」と拍を数えるという、日本の厳しい教え方も多分に影響していることでしょう。


「自己表現の前に、まずは正確性」という教育法、とでもいいましょうか。


そういったことをすべてひっくるめて、ウィーンの先生は「日本語のように平坦に聞こえる」「ウィンナ・ワルツのリズムにうまく乗っていない」と指摘されたのでしょう。



実は、わたしも、アメリカ人の方に似たようなことを言われたことがあります。


「あなたがしゃべるのを聞いていると、姪っ子を思い出した。なぜなら彼女も、あなたのように物静かに単調な話し方をするから(You remind me of my niece. She talks calmly, almost in a monotonous way, just like you do)」と。


その頃は、あまり英語に慣れていない時で、自分で何を話そうかと懸命に考えながらしゃべっていました。そこで、頭の中で文章を組み立てているうちに、自然と抑揚のない、単調な物言いになっていたのでしょう。


以前もどこかで書いたことがありますが、ヨーロッパ系の言語は、リズムに乗って歯切れよく、音楽のようにメロディーをつけて話すことが重要になってきます。


メロディーというと大げさに聞こえますが、高い、低い、強い、弱い、のメリハリをつけること。


それは、英語でもドイツ語でもフランス語でもスペイン語でも同じことで、中でもイタリア語は、メリハリが顕著な言語なのかもしれませんね。



そんなわけですので、リズムが違っていると、まったく別の単語のように思われてしまうこともあります。


たとえば、こんなことを言ったとします。


I flew to Seattle just to enjoy the Mariners’ game

僕は、マリナーズの試合を観るためだけに(わざわざ)シアトルに飛んで行ったんだ


この文章では、地名のワシントン州「シアトル」が肝になってくるわけですが、ここで日本語のようにシアトルと言ってはいけません。


どちらかというと、「CRO(シーアールオー)」と言った方が通じやすいことでしょう。


そう、「アー」にアクセントのある「シーアーロー」といった感じ。


地名で難しいのは、コネチカット州もありますね。


こちらはもはや、「ネ」にアクセントのある「ケネディケッ」といった感じ。日本語の「コネチカット」は、すっかり忘れた方が良さそうです。


日本語の発音とまったく違う単語には、動物のコヨーテもありますね。


こちらは、「ヨ」にアクセントのある「カヨーリー」といった感じ。


I hear coyotes howling every night

毎晩、コヨーテたちの遠吠えが(ずっと)聞こえる


こちらは、わたし自身の実体験なんですが、カリフォルニア州サンノゼ市の郊外にある住宅地では、繁殖期ともなると、コヨーテたちが呼び合う叫び声が聞こえてきたものでした。一頭が鳴き始めると、他も追随するので、迫力のある遠吠えになるのです。


(上の文章では、coyotes howl(叫ぶ)でも良いのですが、ずっと鳴いているのを表現するために、現在進行形の howling を使っています)


Coyotes は、どちらかというと「カヨーリーズ」ですので、発音は要注意ですね。



というわけで、ちょっとお話がそれましたが、今日の話題は、リズムに乗ること。


音楽であろうと、言語であろうと、リズムに乗らないと、相手には伝わりにくい。


Viennese waltz であろうと、英語の発音であろうと、先入観を捨てて、もともとの音やリズムに慣れてみる。


すると、言葉だって、意外と音楽のように聞こえてくるかもしれません。



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