Repeated number (連続する数)
ふとデジタル時計を見ると、ほとんどの場合、同じ数がずらっと並んでいるんです。
たとえば、1時11分、2時22分、3時33分といった具合に、ある数字が連続しているのです。
まあ、6時台のように、66分があり得ない場合は、6時11分と、分の部分だけでも連続しているんですね。
音楽を聴こうと CD をかけていても、ふと経過時間を見ると3分33秒だったりと、ここでもずらりと並んでいるのです。
この2、3週間、こういったケースは、時計に目をやるうちの9割ほどに達していて、「何事かあるのだろうか」と薄気味が悪いのです。
以前、何かの雑誌に、「最近、時計を見るといつもゾロ目なんですが、これはどういう意味ですか?」という相談が寄せられていて、答えはずばりこうでした。「それは、近頃、あなたの感覚が研ぎ澄まされているということです。何か良い事が起こるサインでしょう」と。
とはいうものの、わたしの身の上には、何も良い事は起きてはいないですけれど。(ただ、身近な人が次から次へと夢に登場してきて、その夢がいやにリアルだということはありますね・・・何か関係でもあるのでしょうか?)
そこで、思ったんですが、この「ゾロ目現象」のことを英語では何というのだろう?と。
まず思い付いたのが、ひとつの数が連続するという意味の repeated number 。
これは、1111 とか、22222 とか、ある数がゾロ目でできている場合や、数字の羅列の中で、ひとつの数字が連続する箇所があるような場合を指しますね。
その一方で、もともと日本語の「ゾロ目」という言葉は、複数のサイコロをふった場合、一斉に同じ目が出るという意味です。
そういう意味での「ゾロ目」は、repeated number とは言わないようですね。
どうも、こちらは、単に「同じ数」という意味の same number となるようです。
だから、「ふたつのサイコロでゾロ目になる」ことは、get the same number on both dice になります。たとえば、こんな風に使います。
What is the probability of getting the same number on two dice?
(ふたつのサイコロでゾロ目が出る確率は何でしょう?)
とすると、冒頭のケースのように、時計がゾロ目になる場合は、same number ではなく、repeated number とか、repeated digits (連続するケタ)ということになりますね。
あるウェブサイトでは、repeated pattern of digits(連続するパターンのケタ)とも表現してありました。ちょうど、こんな風に。
The probability of looking at a digital clock and seeing a symmetrical or repeated pattern of digits is about 8%.
(デジタル時計に目をやって、数字が対称になっているとか連続している確率は、およそ8パーセントです。)
注: ここで、対称になっている数字というのは、212、313、1001、1221 などの場合です。111、222、1212 のように、単純に数字が連続しているケースは全部で8通り、対称になっているケースは全部で42通りあります。厳密にいうと、ここでは自然数の羅列、たとえば 123、234、345、1213 などの8通りも入れているので、合わせて8パーセントの確率ということになっています。いうまでもなく、母数は、12 x 60 = 720 となりますね。ちなみに、自然数の羅列を入れないとすると、およそ7パーセントの確率、それから、単に数字が連続する「ゾロ目」のケースは、およそ1パーセントといったところでしょうか。
(出典:http://www.eadon.com/coincidences/zzqbitcoinclockmaths.php)
してみると、「ゾロ目」の中でもあまり美しくない 1010 と 1212 を除いて、111、222、333、444、555、1111 といった「純然たるゾロ目」に出くわす確率は、およそ0.8パーセントということになりますよね。
そんな低い確率であるはずなのに、デジタル時計を見たときに頻繁に「ゾロ目」に出くわすって、いったいどういうことなんでしょ???
さて、ちょっと不思議に思ったのですが、日本語では「ゾロ目」なる言葉が存在するのに、英語では単に「同じ数(same number)」といった味気ない表現しか存在しないのは、いったいなぜなのでしょう?
まあ、こればっかりは、言語学者にしかわからないことかもしれませんが、ほんの少し手がかりになることといえば、日本では文化的に「連続する数」が尊ばれていることがあるのではないでしょうか。
たとえば、日本国内の聖地・霊場に詣でる巡礼には、「西国(さいごく)三十三所巡礼」とか、有名な「四国八十八ヶ所」があります。前者は和歌山県から岐阜県にかけて、後者は四国四県を巡るものですね。
また、全国のあちらこちらには、三十三所や八十八ヶ所の霊場巡りがあるそうです。
(写真は、和歌山県那智勝浦町にある那智滝を望む青岸渡寺(せいがんとじ)。西国三十三所巡礼のスタート地点です。)
八十八という数には、「夏も近づく八十八夜」もありますね。現在の暦では5月2日頃だそうですが、だいぶ暖かくなったわりに、晩霜(おそじも)が降りて農作物に被害を与えることがあるので、昔は、この日を目安に農作業を始めたりしたそうです。
それから、女の子の幸福を願う「ひな祭り(桃の節句)」は、3月3日ですし、男の子の無事な成長を願う「端午(たんご)の節句」は、5月5日ですよね。
(こちらの鯉のぼりの写真は、神話のふるさと島根県美保関町で撮ったものです。)
良いことばかりではなくって、厄年の中には、女性に災難がふりかかる年とされる三十三歳もありますね。これは、女性の大厄(たいやく)だそうですが、男性の大厄の四十二歳は「死に」、女性の三十三歳は「散々(さんざん)」の語呂合わせだという説があるそうです。
まあ、昔の尺度からすると、女性はだいだいこの頃に子供を産み終え、体の不調がどっと出るという、ライフサイクルからきているのかもしれませんね。
(巡礼、八十八夜、厄年に関しては、丹野 顯氏著 『常識として知っておきたい日本のしきたり』 PHP研究所発行 を参考にさせていただきました。)
こんな風に、日本では「ゾロ目」が尊ばれてきたわけですが、そうやって考えてみると、英語圏でのゾロ目は、文化的にあまり意義のないことなのかもしれません。だって、ゾロ目で喜ぶのは、カジノのクラップス(craps)くらいなものでしょうから。
サイコロをふたつ投げて、出た目のコンビネーションで遊ぶクラップスでは、ゾロ目が出難いので、ここに賭けることを「hard way(難しい賭け方)」なんていいますものね。ゾロ目が出ると、果敢に挑戦したご褒美として、配当をたくさんもらえるのです。
ゾロ目を尊ぶ日本と、「ま、偶然でしょ」と片づける英語文化圏。どうして国によってゾロ目に対する意識が違うのかは謎のままですが、もしどなたかご存じでしたら、ご指南くだされば嬉しい限りです。
追記: サイコロをふたつ投げて出た目の確率というのは、結構みなさんの関心を引く話題のようですね。
実は、上でご紹介した英語の文章「 What is the probability of getting the same number on two dice? (ふたつのサイコロでゾロ目が出る確率は?)」は、ヤフーサイトの「Yahoo Answers」という質問コーナーから引用したものなのです。
けれども、何はともあれ、それに対する答えが驚きに値するものでした。合計8人が答えているのですが、正解の「6分の1」というのは、たったひとりだったのです。
あとは、「36分の1」が3人、「21分の6」が2人、そして意味不明が2人。やっぱり、アメリカ人は算数がひどく苦手なのです!
それから、最後に出てきたカジノのクラップスというゲームですが、日本の方には馴染みが薄いということで、僭越ながら、簡単に解説させていただいたことがあります。もし興味がおありのようでしたら、こちらをご覧くださいませ。
わたしはギャンブルが好きなわけではありませんが、みんなでワイワイとやるクラップスは、一種独特の雰囲気があって楽しいと思うのです。自分でサイコロを投げて、勢い余って場外に飛び出したとしても、それはご愛嬌といったところでしょうか。