Experimental(実験的な)
「英会話にはピンポン球のやり取りみたいなところがあるので、打ち返すことが大事であって、あまり凝った表現を使う必要はない」と。
ごくごく基本的な文型を使って、ポンポンと話を進めていくことが大切ですので、「関係代名詞を使って長い文章を組み立ててみよう!」などと、がんばる必要はないと思うのです。
たとえば、誰かと旅行をしているとき、I’m hungry(お腹すいたよ)と、ひとこと意思表示することだって大事でしょう。
相手は、それだけ聞けば、OK, let’s find a good restaurant (わかったわ、良さそうなレストランを探しましょうか)と、食べる場所を探してくれることでしょう。
そんな簡素な文章の中で、とっても大切な役割を果たすのが、形容詞(adjectives)でしょうか。
何かしらの様子や状態を表す言葉ですね。
上の短い文章「わたしはお腹が空いています(I’m hungry)」の hungry のように、「空腹を感じている(I’m feeling hunger)」という状態をもっと簡潔に、的確に表すのが、形容詞 hungry というわけです。
形容詞は、便利なのです。
A is B(AはBである、I am hungry)で、ひとつの立派な文章になってしまうのですから。
そんなわけで、自分の状態や感情、何か見た物の様子などをしっかりと表すには、形容詞をたくさん知っておかなければならないということになるでしょうか。
言い換えると、英語を勉強する上では、形容詞がキーとなる、と言ってもいいのではないでしょうか。
(それに比べると、日常会話に出てくる動詞なんて、have とか get とか take とか、いつも決まった簡単なものしか使っていないような気もするのですよ。)
たとえば、誰かがこんな感嘆の声を上げたとしましょう。
Wow, that’s awe-inspiring!
そんなとき、awe-inspiring(発音は「オウ・インスパイアリング」)という形容詞がわからないのでは、何を言っているのかわかりませんよね。
こちらの形容詞は、「(畏敬の念を抱くほど)スゴい」という意味です。
最初の awe という部分は、「(神や自然に対して抱くような)畏敬の念」という意味で、「畏敬の念を inspire するように(呼び起こすほどに)スゴい」という形容詞になっているのです。
ま、ちょっと気取った文語調といった感じでしょうか。
いちいち awe-inspiring と言うのは長いので、縮めて awesome(発音は「オウサム」)と言うのが一般的ではあります。
Wow, that’s awesome!
「ワーッ、それってスゴい!」
とにかく、awesome も awe-inspiring も、「驚くほどスゴい(amazing)」といった良いニュアンスがあるのです。褒め言葉ですので、覚えておいて便利な形容詞だと思います。
(写真は、ワイオミング州のグランドティートン国立公園。草原にある礼拝堂から眺めた、美しいティートンの山並みです。)
さて、前置きが長くなりましたが、表題になっている experimental に移りましょうか。
こちらの形容詞は、experiment(実験、新しいことを試してみること)という名詞からきているので、「実験的な」という意味になります。
科学的な文章でない限り、そんなに頻繁にはお目にかからないかもしれません。
それで、どうして experimental が出てくるのかというと、先日、この形容詞を使って「しまった!」と思ったことがあったからなのです。
日本から知人がいらしたので、ワインの名産地ナパ(Napa Valley)をご案内しようと、名高いワイナリーに向かいました。
日本でも有名なベリンジャー(Beringer)の歴史的な建物に入って、ワインテイスティングをしたのですが、テイストした中に、今まで知らなかったラベルを見かけたのでした。
「Leaning Oak(傾いた樫の木)」というラベルで、ベリンジャー・ワイナリーの現地でしか買えないシリーズです。
このシリーズには、白のソーヴィニョン・ブラン、シャルドネ、赤のジンファンデル、シラー、メルローと、いろんな種類のワインがあるのですが、とにかく、今までのベリンジャーのワインとは、まったく印象の違うお味に仕上がっていたのでした。
味が違うのは新しいシリーズだからですよ、という担当者の説明を聞きながら、ついこんな風に発言してしまったのでした。
So it’s experimental.
「ということは、実験的な(シリーズ)なんですね」
すると、相手の方は、ちょっと間を置いて、こう言い直してくれたのでした。
Well, it’s unique.
「というよりも、ユニークということかしらね」
それを聞いて、ハッとしたのでした。
だいたい、ワインとして世の中に出すからには、どんなに新しいラベルだって、立派な「完成品(finished product)」なのです。それを「実験的(お試し中)」だと言うなんて、自分はなんと失礼なことか! と。
まあ、わたしとしましては、従来の味にとらわれず、新しいものに挑戦している(challenging)というニュアンスを出したかっただけなんですけれど・・・。
ここで彼女が言い直した unique という言葉は、どちらかというと、「他と違って、特徴があって良い」というような褒め言葉になるでしょうか。
同じように、ワインの味などを表現するときに、different(他と違う)という形容詞を使うこともあります。
Wow, this is different. It has an aroma of coffee.
「あら、これって違いますね。なんとなくコーヒーの香りがしますね。」
(そうなんです。カリフォルニア特有のジンファンデルなど、赤ワインの中には、コーヒーの香りがするものもあるのです。)
こちらの different という表現は、「好きか嫌いかは置いておいて、とにかく今まで知っているものとは違う」といった、微妙なニュアンスが含まれているでしょうか。
そして、テイストしてみて、とにかく「美しいワインだ!」と思った場合には、こんな風に表現してみたらいかがでしょうか。
This is such an exquisite wine!
「これは、なんと美しい(絶妙な)ワインでしょう!」
というわけで、最後に、ベリンジャーに関するトリビアをどうぞ。
ベリンジャーの新しいシリーズ「Leaning Oak」は、敷地内にある「傾いた樫の大木」に由来するそうです。
長い間、傾いたままの大木でしたが、ごく最近、とうとう倒れてしまったのでした。きっと病気にかかっていたものが、突風か何かで倒れたのでしょう。今では、根っこの部分だけオブジェのように残され、ワイナリーの訪問者を迎えています。
そんな老木に敬意を表して、「Leaning Oak」というラベルをつくったのだそうです。
「老木」というわりには、若々しいフレッシュなお味になっております。
それから、ベリンジャーが映画撮影に使われたことがありました。
ナパで継続して営業するワイナリーの中では、一番古い(設立は1876年)そうなので、撮影陣も「ここだ!」と即決したのでしょう。
映画というのは、1957年制作の『The Unholy Wife(邦題:金髪の悪魔)』です。
こちらの写真は、主役を演じたイギリスの女優、ディアナ・ドースさんです。題名の「unholy(汚れた、罪深い)」という形容詞が示すとおり、まあ、悪魔のような悪い妻を演じていらっしゃるのです。
夫は、ナパでワイナリーを営む実業家(写真左が、夫役のロッド・スタイガーさんでしょうか)。
多忙で出張の多い夫の目を盗んで、地元のロデオ・カウボーイと恋仲に落ちた妻は、夫を殺そうと企てるのです。が、そこに思わぬアクシデントが・・・。
観たことはありませんが、なんとなく、どろどろとしたメロドラマなのかもしれませんね。
まあ、ベリンジャーのワインはどろどろとしたものではありませんので、どうぞご安心を!
追記: 今でこそ、世界に広く知られるベリンジャーの名ですが、130余年にわたる経営は決して楽ではなかったようです。
1971年、一世紀近くがんばってきた家族経営にも行き詰まり、コーヒーやチョコレートで有名なネスレ(Nestlé、本社はスイス)に売られます。
さらに、1996年には投資家グループに売られ、いくつかワイナリーを買収したあと、株式市場への上場を果たします。
そして、2001年、オーストラリアのビール会社フォスターズ(Foster’s)に買収され今に至るわけですが、近頃とみにワインで力をつけてきたオーストラリアの会社らしく、世界戦略に挑んでいるのです。
おっと、形容詞のお話のはずでしたが、えらく脱線してしまいましたね! とにかく、experimental という言葉には、ご注意あれ!