All or nothing(一か八か)
前回は、英語のことわざをご紹介しました。
世界には似たような表現があるなと思ったものですから。
Killing two birds with one stone
「ひとつの石(one stone)で二羽の鳥(two birds)を殺す」から、一石二鳥。
「殺す(kill)」という表現が入っている分、英語の方がちょっと生々しいですよね。
そして、一石二鳥とはまったく逆の「二兎を追う者は一兎も得ず」
Grasp all, lose all
「すべてをつかもう(grasp all)とすると、すべてを失う(lose all)」
ドイツ語やイタリア語、スウェーデン語にも似たようなことわざがあるそうで、やっぱり「欲の皮をつっぱらせてはいけないよ!」とは、古今東西、立派に生きている格言なのです。
それで、このお話を掲載したすぐあとに、「あ! 『二兎を追う者は一兎も得ず』とまったく一緒!」と思ったことがありました。
それは、こちらの文章を目にしたとき。
If we stick to the position of all or nothing, we’re going to end up with nothing
もしも我々が「すべてか無か(一か八か)」という立場に固執するなら、何も得られない結果となるだろう
ちょっと堅苦しい文章ではありますが、最初の stick to という動詞は、「~に固執する」という意味。
そして、後ろの動詞 end up (with) は「~という結果になる」という意味で、どちらかというと、悪い顛末のときに使います。たとえば、こんな風に
I ended up eating more than I needed to
(食べ物がおいしかったので)必要以上に食べてしまったわ・・・
それから、表題にもなっている all or nothing 。
こちらは、直訳すると「すべてか無か」ですが、日本語では一般的に「一か八か」と訳されるでしょうか。
「一か八かの賭けだ」という表現があるように、賭けに勝つか、すべてを失うかのどちらかだ、といった固い意志を含んだ表現ですね。
そう、「もしもこれがダメなら、僕は、妥協案は受け付けないよ」といった強硬な態度。
ですから、例文の the position of all or nothing は、「『一か八か』を貫く(強硬な)立場」という意味になります。
それで、ちょっと難しい今日の例文
If we stick to the position of all or nothing, we’re going to end up with nothing
もしも我々が「一か八か」の立場に固執するなら、結果的には何も得られないだろう
この例文は、政治にからんだものでして、アメリカの上院議員マルコ・ルビオ氏(共和党-フロリダ州選出)が発言していたものを、ワシントン・ポスト紙のコラムニスト、ジョージFウィル氏が改めて紹介したものでした。
同紙は、首都ワシントンD.C.で(もめごとの多い)連邦議会の動きを見守る役割を果たしていますが、上記のルビオ氏の発言は、アメリカの移民政策の改革(immigration reform)に関するものでした。
あんまり欲張り過ぎて、思い付く改革をすべてつっこみ完璧な法案をつくろうとすると、かえってすべてを失うことになるかもしれないよ、という警鐘の意味で発言されたようです。
「すべてを失う」というのは、(民主党議員が多い)上院議会では採択されても、共和党議員の多い下院では通過しないよ(だから、法律にはならないよ)、という警告です。
現在、アメリカの上院と下院は「ねじれ国会」ですからね。
というわけで、all or nothing
一か八か
籠の中にいっぱい詰め込んで「さあ、どうだ!」と迫ったところで、結果的には何も実らなかったりする。だから、大きな問題をいっぺんに解決しようとしないで、(国境警備、アメリカ人の職の確保、不法滞在者の帰化と)ひとつずつ個別に解決していったら?
そんな、コラムニストのアドバイスでもありました。
なにせ、この法案は、1193ページもあるそうですから。
例文の出典: “History’s clues on immigration reform” by George F. Will, a Washington Post columnist, published in the San Jose Mercury News, November 14, 2013
こぼれ話: All or nothing と聞いて、『All or Nothing At All』という歌を思い出した方もいらっしゃることでしょう。
この歌は、もともとはフランク・シナトラ氏が歌い、1940年代に大ヒットとなったものですが、これまで、いろんなアーティストの方がカバーされています。
All or nothin’ at all
すべてかゼロか
Half a love never appealed to me
半分の愛なんて興味ないんだ
If your heart, it never could yield to me
もしもきみの心が、僕に傾くことがないんだったら
Then I’d rather, rather have nothin’ at all
だったら、僕は何もいらないよ
人気シンガーとなったシナトラ氏を「スターダム」までのしあげた有名な歌ですが、たぶん、この歌詞の「共感度」は、いつの世も変わらないのでしょう。