No business in Washington(用事はありません)
いつもより早めに目覚めると、枕元のスマートフォンに留守番メッセージが残っています。
誰だろう? と思いながら電話番号を見てみると、
地域コード(area code、日本の市外局番)は 509
発信地はワシントン州スポーケイン(Spokane, Washington)となっています。
ワシントンは、カリフォルニアの上(オレゴン)の上の州。
え、ワシントン州に友達はいないけれど・・・と、いぶかしく感じながらメッセージを再生すると、なにやら、苦情の内容です。
わたしは、あなたの隣の家に住んでいる者だけど、朝早くから目覚まし時計かラジオがガンガンと音楽を鳴らしてうるさいの。だから、あなたがいないのなら、誰かを家によこして、音を止めるようにしてちょうだい、というメッセージ。
え~っ、ワシントン州はシアトルに一度行ったきりで、家など持っていないのに! と驚いたものの、
かなり困っている様子だったので、「間違い電話」であることを伝えようと、彼女にコールバックしたのでした。
幸い、何回か呼び鈴が鳴ると彼女が出てきたので、こう説明しました。
I just received your message, but I live in San Jose, California, and this is totally a wrong number
あなたのメッセージを受け取りましたが、わたしはカリフォルニア州サンノゼに住んでいて、完全に間違い電話ですよ
それでも、あきらめきれずに食い下がる彼女。
Well, this person also lives in California and recently bought a house next door
だって、この人物もカリフォルニア州に住んでいて、最近隣の家を買ったのよ
しまった、これじゃ「カリフォルニア説」は通じない!
でも、どうやったら彼女を説得できるのかと頭を回転させ、こう主張してみました。
I have no idea what you’re talking about
あなたが何を言っているのか、さっぱりわかりません
I have no business in Washington
わたしにはワシントン州に用事などありません
And I’ve never been to Spokane, Washington in my life
そして、スポーケインには、一度も行ったことがないのです
だって、スポーケインなんて、名前は聞いたことがあるものの、どこにあるのかも知らないのですから(どうやら、アイダホ州との州境、かなり内陸部のようですが)。
すると、あちらは、ようやく無関係の人に電話をしていることを理解したようで、声色に「あきらめ」が漂います。
それで、ちょっと気の毒に感じたので、どうやって電話番号を入手したのか尋ねてみると、
どうやら隣の家は改装中で、立て看板に「用事があったら、こちらに電話してください」と書かれてあったとのこと。
待ってね、文章を読んでみるからと、書き写した全文を読んでくれたのですが、
なんと、電話番号の最後の桁が、一番違いだったのでした!
10桁の最後の番号が「9」なのに、「8」にかけたという単純ミス。
あらま、ハッ、ハッ、ハッと高らかに照れ笑いしながら、ごめんなさいと謝るので、こちらもまったく怒る気にもならずに、こう返したのでした。
Oh, that’s OK. It sounded like a serious problem, so I wanted to give you some advice
そんなの大丈夫。なんだかシリアスな問題に聞こえたから、ちょっとアドヴァイスしたかっただけよ
I hope you can solve the problem pretty soon
すぐに問題が解決するといいですね
そう、他州の方に対しては、カリフォルニア人の心の広いところを見せてあげないといけません!
それにしても、近頃は、携帯電話だけで過ごす人も多いし、州を超えて引っ越しても、すぐには番号を変えない人も多い。
ですから、カリフォルニアの地域コードだったにしても、「わたしは他州にいるから関係ない」という言い訳が成り立たないこともあるんですよね。
(ちなみに、アメリカの携帯番号は、通常の固定電話と同じ風に、3桁の地域コードのあとに7桁の番号が続きます)
ちょっといい事をしてあげたかな? と、いい気分になったその日の午後。
近くのスーパーでお買い物をしたら、レジの台にお財布が置き去りになっているのに気がつきました。
レジの担当者に尋ねると、「あ、それは、前の女性客のお財布よ。きっと、まだその辺にいるんじゃないかしら」と答えます。
ですから、「わたしが行って、手渡しましょう」と、駐車場で車に荷物を載せている彼女に走り寄り、お財布を手渡したのでした。
布製のシンプルなお財布には、なにやら紙モノがいっぱい詰まっていて、きっと失くしたら大変だったのでしょう。「あら、ありがとう」と、ホッとした表情を見せてくれました。
今日は、ふたつ「いい事」をしたなと、満足して家に戻ってみると、
お向かいさんが旅行中に、大きな荷物を預かったりしていたので、そのお礼に赤ワインをプレゼントしてくれたのでした。
添えてあったカードには、ペン習字のきれいな文字で、こう書いてありました。
Heartfelt thanks for all you did while we were away
わたしたちが旅行中にいろいろとやってくれて、心からありがとう
もしかすると、「いい事」って、連鎖反応するのかもしれませんね。