Until the cows come home(気のすむまで)
今日のお題は、until the cows come home
以前も、べつの表現に添えてご紹介したことがあるのですが、
直訳すると、「牛(乳牛、the cows)が牛舎に戻ってくるまで」。
でも実際は、「気がすむまで、ずっと」という意味になります。
We can argue until the cows come home
気がすむまで、ずっと討論できるよ(望むなら、ずっと討論しようよ)
We talked until the cows came home
気がすむまで、ずっと語り明かした
それで、以前は、「どちらかというと、熟年男性が難しい議論をするときに使うかもしれない」とご紹介していましたが、どうやら、若い女性にも、この表現を使う方がいらっしゃるようです。
こんな人生相談がありました。
わたしは、78歳の祖母が大好きなんだけど、未亡人になってからは、祖母は自分の話ばかりして、わたしのことなんて(もうすぐ夫となる男性のことや結婚式のことすら)何も聞いてくれないの、と。
We used to talk till the cows came home, and it’s not the same anymore
以前は、気のすむまで語り合ったのに、今はもう違うわ
78歳のおばあちゃんということは、相談者の方は、ご結婚前の20代の女性でしょうか。
以前、シリコンバレーのテクノロジー会社に勤めていたとき、同僚の女性が「古めかしい」表現を好んで使っていたのですが、サンディエゴという都会出身のわりに「おばあちゃん子」だったので、言葉遣いも古風なようでした。
人がどんな表現を使うかって、じっと聞いていると面白いものですよね。
それで、お話を cow に戻しましょうか。
以前も、動物の数え方のお話でご紹介したことがありますが、「牛」という言葉は、かなり面倒くさいものですね。
メスの牛は cow、複数形 cows
オスの牛は bull、複数形 bulls
子牛は calf、複数形 calves
そして、いろんな牛が混ざった総称は cattle
ですから、a herd of cattle というのは、オスもメスも子牛も、いろんな牛が混ざった群れのこと
一方、a herd of cows といえば、メス牛(乳牛)の群れ
ですから、until the cows come home という表現は、
「昼間は牧場で草を食(は)む乳牛が、夕方になって牛舎に戻ってくるまで」という放牧の光景から生まれたものなんでしょう。
(写真は、スイスのルツェルン湖を見下ろす、ビュルゲンシュトック・リゾート裏手の牧場)
同じように、英語には cow を使う表現も多いようです。
一般的なものでは、Holy cow! というのがありますね。
驚いたときに「なんてこった!」と、とっさにあげる叫び声。
なんでも、もとは Holy Christ! という表現だったのが、「キリスト」を使うのはよろしくないということで、同じように宗教的に「神聖(holy)」である「牛」を使うようになったとか。
驚いたときに、Oh my God! と言うのを避けて、Oh my goodness!と言い換えるのと似ていますよね。
直訳すると「お金の牛(乳牛)」というわけですが、
「お金をじゃんじゃん生み出す、ありがたい稼ぎ頭」といった意味になります。
乳牛さんは、毎日ちゃんとお乳を出してくれるので、酪農家にとっても、ありがたい、頼りがいのある存在ですね。
なんでも、ビジネスコンサルティング会社が生み出したビジネス用語だそうですが、今では、cash cow と言えば誰でもわかるくらいに、みんなに広まっています。
(Photo of Holstein cow by Keith Weller / USDA, from Wikimedia Commons)
これに似た言葉で、pork barrel というのがあります。
「(塩漬けにした)豚の樽」というわけですが、
政治の世界で使われる表現で、「地元に有利に運ぶように(地元にお金が流れるように)画策する」ことを指します。
たとえば、pork-barrel project(政治家の地元に有利なプロジェクト)とか、
pork-barrel policy(地元に有利になる政策)という風に使います。
昔は、樽に漬け込んだ豚を保存食としたので、それが「頼れる収入源」という意味で、政治に転用されるようになったんでしょう。
オスの牛 bull ともなると、とたんに荒々しい表現が多くなります。
(Photo of angry bull by Bart Hiddink, from Wikimedia Commons)
有名なところでは、take the bull by the horns というのがあります
直訳すると、「雄牛のツノをつかむ」というわけですが、
「(問題に)まっこうから立ち向かう」という意味になります。
「暴れ回る雄牛のツノをつかんで、おとなしくさせる」わけですから、「かなり厄介な、今まで避けてきた問題に正面から向き合う」ことになるのです。
She took the bull by the horns and got the job done
彼女は問題に正面から向き合い、首尾よく仕事を終えた
なんとなく「たとえ話」というよりも、雄牛をつかむ光景が想像できるような言い回しではありますね。
それから、bull を使った表現には、
like a bull in a china shop というのもあります。
この場合の china は、「陶磁器」という意味で、china shop は、デリケートな焼き物がたくさん置いてある陶器屋さん。
ですから、「陶器屋の中の雄牛みたい」とは、「雄牛が店で暴れて、焼き物をバンバン割るみたいな」様子で、
かなり不器用(clumsy)で、荒々しく(aggressive)もあり、コントロール不能(out-of-control)な状態を指す表現です。
He was like a bull in a china shop
彼はもう、手のつけられない状態だったよ
こちらも、目の前に情景が浮かんでくるような慣用句でしょうか。
アメリカのバスケットボールリーグに「シカゴ・ブルズ(Chicago Bulls)」という有名チームがいます。
やっぱり「雄牛」といえば、誰もが恐れるような、強いイメージがあるのです。
(Team logo by Source, Fair use, Wikipedia)
あ~、それから、bull を使った表現で、一番よく耳にするのは、
Bullshit! がありますね。
こちらは、たぶん放送禁止用語だと思いますが、「この野郎!」とか「クソ!」といった叫び声。
まあ、文字どおり「雄牛のクソ」というわけですが、お上品ではないので、女性は避けた方がいいでしょう。
この場合の bull には、「ナンセンス」という意味合いがあるそうで、「詐欺、だます」という意味のフランスの古語 boul に由来する、という説があるとか。
「だまされて、悔しい!」という叫び声から生まれた言葉なんでしょうね。
叫び声として使うだけではなく、
It’s all bullshit!
それって、全部うそっぱち(ナンセンスな言い分)さ!
などと、文章にして使うこともあります。
もしも、どうしても腹にすえかねることがあったら、BS(ビーエス)と略語で使うことをお勧めします。
イギリスもアメリカも、もとは農業・酪農国ですから、牛とか豚とか、家畜を使った表現がたくさんありますよね。
また、近いうちに、動物が出てくる言葉をご紹介することもあるかもしれません。
追記: オスの牛には、bull 以外にも、べつの呼び名があるみたい。
なんでも、bull というのは、去勢されない、生殖能力を持つ雄牛のことで、
去勢された雄牛は ox、複数形 oxen と呼ぶそうです。
おもに oxen は、農耕に使われたり、牛車に使われたりするそうですが、去勢されて「おとなしくなった」雄牛じゃないと、手に負えないんでしょうね。
それから、いわゆる「肉牛」というのは、beef cattle(ビーフとなる牛)
「乳牛」は、dairy cattle(お乳を取る牛)と呼ばれます。
レストランで veal と呼ばれる「子牛」は、乳牛のオスの子供だとか・・・。