西洋なしの季節
9月の第一週、日本から戻ってきた連れ合いが、開口一番こう言うのです。
いやぁ、カリフォルニアは、天気がいいねぇ、と。
そう、今は「乾季」のカリフォルニア。
天気がいいのは当たり前ではありますが、日本では連日雨に降られ、余計にカリフォルニアの晴れた空に感動したようでした。
けれども、さすがに9月ともなると、風がひんやりとしてきて、早々と季節の移ろいを感じるのか、葉っぱを黄色くする木々も見かけます。
そうなると、スーパーマーケットにも、秋の果物が並びますね。
秋の果物といえば、梨(なし)を思い浮かべる方も多いと思いますが、それはカリフォルニアでも同じでしょうか。
夏の間、幅を利かせていた桃やプラムは影をひそめ、代わりに梨が登場します。
もちろん、日本で見かける丸い梨も「アジアの梨(Asian pear)」と呼ばれ、ポピュラーなものではありますが、やっぱりアメリカでは、西洋梨が主流ですね。
西洋梨といえば、今までは縁遠い存在でしたが、近くのオーガニックスーパーには、いろんな種類が並んでいて、ついつい試してみたくなりました。
どことなく美術品のように端正で、「どんな味がするんだろう?」と、興味をそそられるでしょう。
それで、最初に試したのは、バートレット(Bartlett)という緑色の梨(上の写真では、朱の混じった黄緑の二つ)。
実は、このバートレットが西洋梨の代表格だそうで、みなさん梨と聞くと、こちらを思い浮かべるとか。缶詰にも使われる品種だそうです。
歯ごたえは、まさしく西洋梨独特の柔らかい感じ。日本のシャキシャキ感はなくて、トロッとした感じでしょうか。
お味は、甘みがある代わりに、酸味もあって、すっぱ味の強い日本の梨を思い浮かべます。そう、梨らしい味ですね。
そのまま食べても美味しいですが、お料理に使うときには、サラダに入れたり、スライスしたチーズと重ねたりと、リンゴの代役ともなるようです。
9月後半の旬になると、どこのお店にも並んでいるような人気の梨です。
酸味が少なく、食べやすいですし、もっとも日本の梨に近い味と歯ごたえでしょうか。見かけも茶色っぽくて、皮の感じも日本のものに近いですね。
実がしっかりしているので、型くずれしにくく、火を通すお料理にも向いています。西洋梨独特の香りが少ないので、どんなソースも邪魔しない、万能の果実だと思います。
お次は、真っ赤なスタークリムソン(Star Crimson)。
クリムソンは、燃えるような、鮮やかな赤の名前ですね。
こちらは、わたしの「一押し」なんですが、それは、見た目が美しいだけではなくて、熟した実はとっても柔らかく、甘みも強いからです。
ジューシーで味わい深く、どことなくトロピカルフルーツのような独特の甘みが特長です。
わたしはさっさと皮をむきますが、せっかく色鮮やかなので、皮のままスライスしてサラダに入れたりすると美しいそうですよ。
その名の通り、イタリアの品種なので、アメリカでは知名度は低いようですが、こちらも「オススメ!」です。
日本で知られるラ・フランスみたいに、西洋梨独特の香りがパ~ッと口の中に広がり、これぞ、西洋梨! と、声を上げたくなるようなお味です。
酸味もありますが、すっきりとしていて、とっても親しみやすい品種だと思います。
アメリカでは、おもに西海岸で生産されるようですが、人気のバートレットに似た味と外観なので、これからドンドン知名度が上がるのかもしれません。
別名、アンジュ(Anjou)とも呼ばれます。
近くのスーパーでは、まだ緑色しか見かけませんが、赤い種類もあって、アメリカではバートレットに次いで知名度の高い品種だとか。
わたしが試食したときには、まだ熟していなくて青リンゴのイメージでしたが、本来は2、3日待って食べるべきとか。熟しても緑色のままなので、ほったらかしにしないで、数日たったら冷蔵庫に保存するように、とのことでした。
あまり酸味がなくて、とっても食べやすい品種です。
歯ごたえは柔らかですが、型くずれしにくいので、お料理にも最適です。ボスクと同じように、西洋梨独特の香りが少ないので、どんな調理法にも合いそうです。
スライスしたあとも、茶色く変化(oxidize)しにくいので、サラダに入れても、スライスチーズと盛り合わせても見栄えがする、とのことでした。
そして、こちらは、セッケル(Seckel)と、ご存じ日本の梨(Asian pear)。
セッケルは、英語では「セクー」といった風に発音しますが、とにかく西洋梨の中では、一番「小粒」。
でも、「山椒は小粒でもピリリと辛い」ように、セッケルは小さくても、とっても甘いのです!
あまり果汁が多い方ではありませんが、歯ごたえが柔らかく、甘みが強いので、すでにコンポートになっているような印象でもあります。
甘みに加えて、リンゴのような独特の酸味もあって、子供たちにもスナックとして最適かもしれません。
スライスすると、ビワに似た香りも漂い、外観からは想像できない、意外な西洋梨! といったところでしょうか。
そして、おなじみ丸い梨。
外見は、日本の幸水に似ていますが、アメリカで生産するものは、どことなく西洋梨の香りに近い感じがします。
でも、やっぱりアジアの梨は、冷やした方が美味しいですよね!
ひんやりとした、果汁たっぷりのアジア梨は、まだまだ暑い秋口には、ぴったりの果実なのです。
知ってみると、奥が深い、西洋梨の探訪でした。
まだまだ試していない種類はたくさんありますが、それはまた、次回お店で出会ったときのお楽しみといたしましょう。