You are welcome to do so(どうぞそうなさって)
このフレーズは、よく耳にしますよね。
Thank you(ありがとう)というお礼の言葉に対して「どういたしまして」と返礼するもの。
猫ちゃんなら「なんてことないにゃ!」と返すところでしょうか。
もともと welcome という形容詞は、「(人が)歓迎される」とか「(物事が)喜ばしい」という意味です。
ですから、「あなたは歓迎されている」が転じて「どういたしまして」に使われるようになったわけです。
個人的な想像ですが、あなたは(わたしにとっては)大事な歓迎すべき人なので、いろいろとやってあげたいのです(だから、お礼なんていいんですよ)といった含みがあるのではないでしょうか。
You are welcome は、文字通り「歓迎されている」という意味で使われることもあります。
You are welcome here
あなたはここでは歓迎されている(だから、いつでもいらしてください)
「ここ」というのは、自分の家でもいいし、学校やオフィスでもいいし、スポーツチームの練習フィールドでもいいし、お弟子さんが集う茶室でもいいのです。
どんな場所であっても、「あなたは歓迎されているのだから、遠慮しないで立ち寄ってくださいね」といった意味で使われます。
(写真は、東京湾に面した浜離宮庭園の『中島の御茶屋』)
お客さんが来たら、ドアを開けながら、こう歓迎することもあります。
Welcome (to my house)!
(拙宅に)ようこそいらっしゃいました!
ざっくばらんに「やあ、やあ、よく来たねぇ」と、お客さんを迎え入れる感じですね。
久しぶりに誰かが帰ってきたときには、「おかえり」と迎えてあげます。
Welcome home!
おかえりなさい!
たとえば、東海岸の大学に通う息子が夏休みで帰ってきたとか、ヨーロッパでバケーションを取っていたお隣さんが帰ってきたときには、「おかえり」と迎え入れます。
この場合の home は、文字通り「我が家」でもあり、自分たちが住む「この街」でもあるのです。
逆に、こんな厳しい使い方をするときもあります。
You are not welcome here
あなたはここでは歓迎されない(だから、さっさと立ち去ってちょうだい)
まあ、ドラマでもない限り、あんまり耳にしない表現でしょうか。
一方、「喜ばしい」という意味の welcome は、このように使うこともできます。
It is a welcome sign
それは、喜ばしい兆しです
たとえば、いつまでも猛暑が続くと思っていたら、都会のビルの片隅にコスモスが花を咲かせていた。
それを見て、もうすぐ秋風が吹く季節なのねぇとホッとする。
Oh, this is truly a welcome sign
まあ、ほんとに喜ばしい兆しだわぁ
そういった「喜ばしい」前ぶれです。
You are welcome には、動詞をくっつけることもできます。
You are welcome to stay overnight
(わたしの家に)一泊していってもいいんですよ
You are welcome to ~ というのは、「~をしてもいいんですよ」「どうぞ~なさってください」という慣用句になります。
You are welcome to do so
どうぞ、そのようになさってください
それまでの会話で話題になっていたこと、たとえば、相手が「あなたの家を訪問したい」とか「来週は休暇を取って旅行に出たい」と言っていたことを、「どうぞそうしてください」と奨励しているわけです。
You(あなた)の代わりに、別の主語を持ってくることもできます。
Everyone in the community is welcome to attend this meeting tonight
コミュニティーの全員が、今夜のこの会合に出席できます
コミュニティーの全員というのは「近隣住民」という意味で、アメリカではだいたい家主協会(homeowners association)がくくりとなっているでしょうか。日本では、町内会みたいなものですね。
これを平たく言うと、こんな感じ。
Everybody is welcome!
誰でも大歓迎です!
それで、You are welcome をもっと丁寧にすると、
You are more than welcome となります。
使い方は You are welcome と同じですが、形容詞 welcome に more than がくっついて、「歓迎を越えている、もっともっと歓迎する」というような強い意味になります。
You are more than welcome
いえ、いえ、どういたしまして(何でもありませんよ)
You are more than welcome to do so
どうぞ遠慮なさらずに、そうなさってください
実は、そもそも You are welcome のお話を書こうと思い立ったのは、先日、このフレーズを使った人がいたからでした。
オンラインショッピングのアマゾン(Amazon.com)で帽子をふたつ注文していたのですが、ひとつは期日通りに届けられたのに、もうひとつはなかなか届かない。
こちらは、別の配送会社に2回電話して初めて我が家に届けられたのでした。
この2回目の電話のときに、わたしがこう言ったのです。
Maybe I have to report this incident to Amazon
もしかしたら、この問題をアマゾンに報告した方がいいのかもしれませんね
すると、配送会社のカスタマーサービスの女性が、悪びれもせずにこう返したのでした。
Oh, you are more than welcome to do so
どうぞ、どうぞ、そうなさってください
日本の常識から考えると、なんとなく、おかしな気もするでしょう? だって、顧客対応の担当者が、自分の会社の「告げ口」を親会社にしてくださいと奨励しているようなものだから。
けれども、アメリカでは、よくあることなんです。だって、物品が届かなかったのは、自分が働く本社機構のせいではなくて、実際に配送を担当する地元のフィールドオフィスのせいですから、フィールドの問題は、どんどん報告してやってくださいと奨励しているわけです。
まあ、その方が、サービス全体の向上にもつながりますし、この担当者にとっては、苦情処理の数が減って嬉しい、ということにもなりますよね。
そんなわけで、You are welcome to do so(そうなさってください)
もしくは、You are more than welcome to do so(どうぞ、そうなさってください)
「そうしてよ」という意味では、ごく簡単に Go ahead という表現もあります。
Go ahead と言えば、Go ahead, make my day という有名な映画のセリフをご紹介したことがありますが、こちらは「やってみろ」みたいな、くだけた表現ではあります。
You are welcome to do so の方が、断然プロフェッショナルに聞こえる表現ですね。
追記: 蛇足ではありますが、顧客担当者のお言葉に甘えて、アマゾンにはメールで問題を報告させていただきました。すると、電光石火で返答がありました。
「こちらではなかなか配達の状況を把握できませんが、ご迷惑をおかけしたお詫びに、『アマゾンプライム』のメンバーシップを一ヶ月延長させていただきます。物品については、あと2日ほど待って届かなかったら、さらなるアクションを取らせていただきます」(アマゾンプライムは、無料配送や映画・音楽のオンライン無料配信サービスで、年会費を払って加入するもの)
アメリカに住んでいると、さまざまな問題が起きますので、カスタマーサービスに電話することも頻繁にあります。それで交渉の話術も鍛えられるというものですが、このときに注意したいのが、声を荒げて頭ごなしに文句を言わないこと。
日本では、客と苦情処理係は、なんとなく主従関係にありますが、アメリカでは、ほぼ対等の関係です。ですから、「わたしちょっと困ってるのよ。助けてちょうだい」と持ちかける方が、相手の受けもいいですし、スムーズに事を処理してくれることが多いです。だって、相手も感情を持った人ですからね。
あくまでも相手を味方につける。それが、アメリカの苦情電話のコツでしょうか。
(招き猫は、ナパバレー・ヨーントヴィルのスーパーで見かけたもの。「商売繁盛」は、どこの国の人も大歓迎なのです!)